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東京地方裁判所 平成9年(ワ)19925号 判決

原告 中小企業金融公庫

右代表者総裁 角谷正彦

右訴訟代理人弁護士 今井和男

同 大越徹

同 吉澤敏行

同 沖隆一

同 正田賢司

同 森原憲司

同 市川尚

同 柴田征範

右訴訟復代理人弁護士 伊藤治

同 中川明子

被告 株式会社鉄商

右代表者清算人 Y1

被告 Y1

被告ら訴訟代理人弁護士 飯田修

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して金三三六万七九八八円及び内金三一一万一六〇〇円に対する平成五年四月六日から支払済みに至るまで年一四・五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文のとおり。

第二事案の概要

一  請求原因(なお、請求原因1及び2の各事実は、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨により認められ、同3及び4の各事実は争いがなく、同5の事実は、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨により認めることができる。)

1  訴外株式会社富士銀行(以下「訴外銀行」という。)は、原告のためにすることを示して、被告株式会社鉄商(以下「被告会社」という。)に対し、平成二年四月二七日、以下の約定で金四〇〇〇万円を貸渡した(以下「本件金銭消費貸借契約」という。)。

(一) 利息 年七・五パーセント(年三六五日の日割計算)

(二) 最終返済日 平成五年四月三〇日

(三) 返済方法 元本については、平成二年六月三〇日以降隔月末日毎に金二二二万二〇〇〇円を分割返済し、最終返済日に残額を完済する。

利息部分は、平成二年六月三〇日以降隔月末日毎に二か月分を後払いする。

(四) 期限利益喪失 被告会社において、手形交換所の取引停止処分を受けたときは、被告会社は当然に期限の利益を喪失し、原告に対し、直ちに残債務を弁済する。

(五) 遅延損害金 年一四・五パーセント(年三六五日の日割計算)

2  原告は、右に先立って、訴外銀行に対し、右貸付につき代理権を授与した。

3  被告Y1(以下「被告Y1」という。)は、原告に対し、平成二年四月二七日、被告会社が原告に対して本件金銭消費貸借契約に基づき負担する債務につき保証する旨を約した(以下「本件連帯保証契約」という。)。

4  被告会社は、平成四年四月六日、手形交換所において取引停止処分を受けたものであり、遅くとも同日までに期限の利益を喪失した。

5  訴外銀行は、被告会社からの依頼により、原告に対し、平成二年四月二七日、被告会社が本件金銭消費貸借契約により原告に対し負う債務につき連帯保証したものであるが、平成五年四月五日、原告に対して代位弁済したので、その当時の被告会社に対する債権残高は、別紙利息・損害金一覧表〈省略〉のとおり合計金三三六万七九八八円であった。

6  本件は、原告が、被告会社に対しては本件金銭消費貸借契約に基づき、被告Y1に対しては本件連帯保証契約に基づき、前記5の未払元本、利息及び遅延損害金金三三六万七九八八円及び内金三一一万一六〇〇円(残元本分)に対する期限利益喪失日以後である平成五年四月六日以降支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求める事案である。

二  抗弁(消滅時効)(抗弁1ないし4の各事実については争いがない。)

1  被告らが原告に対して本件金銭消費貸借契約及び本件連帯保証契約に基づいて負う各債務(以下「本件各債務」という。)は、いずれも商行為によって生じたものであり、時効消滅期間は五年である。

2  本件金銭消費貸借契約には、被告会社が支払の停止に至ったときは当然に期限の利益を喪失し、原告に対し、直ちに残額務を弁済する旨の約定があるところ、被告会社は、平成四年三月三一日、支払不能により手形が不渡となり、遅くとも同月六日までに期限の利益を喪失した。

3  平成九年四月六日は経過した。

4  被告らは、原告に対し、平成九年一〇月二七日(本件第一回口頭弁論期日)に、本件各債務につき消滅時効を援用した。

三  再抗弁(催告による時効中断)

1  訴外銀行は、被告らに対し、平成九年三月二八日到達の内容証明郵便(以下「本件催告書」という。)で、本件金銭消費貸借契約に基づく債務を弁済するよう催告した(以下「本件催告」という。)。

2  原告は、被告らに対し、本件催告から六か月以内である同年九月二二日、本件各債務の支払を求める本訴を提起した(争いがない。)。

3(一)  原告は、訴外銀行に対し、右1に先立って、本件催告を行う代理権を授与したもので、訴外銀行は、本件催告を原告のためにする意思(代理意思)をもってなした。

(二)  本件催告は、原告にとって商行為に当たるから、本件催告の代理には顕名を要しない。

(三)  被告らは、本件催告を受けた際、訴外銀行が、右(一)の代理意思を有していたことを知り得た(民法一〇〇条但し書)。

4  よって、本件催告により被告ら主張の消滅時効は中断したものである。

四  争点

被告ら主張の消滅時効が本件催告によって中断したのか否か、すなわち、再抗弁1及び3(一)ないし(三)の各事実の有無が本件の争点である。

本件争点に関して、被告らは以下のとおり主張する。

1  再抗弁1について、本件催告は、対象となる債務が本件金銭消費貸借に基づく旨の特定に欠けるので、時効中断事由としての催告に当たらない。

2  再抗弁3(一)の事実は否認する。

3  再抗弁3(二)については、本件催告は原告にとって商行為に当たるとはいえないから顕名を要するところ、本件催告は、原告のためにする旨の顕名を欠く。

4  再抗弁3(三)については、訴外銀行は本件催告において原告のためにする意思を有しておらず、また、仮に有していたとしても、被告らにおいて右代理意思を知らず、また、知り得なかったものである。

第三争点に対する判断

一  再抗弁1の事実について

1  〈証拠省略〉によれば、訴外銀行作成の本件催告書には、被告会社が訴外銀行に対して負担する別紙債務目録〈省略〉の債務(以下「本件催告書表示の債務」という。)につき、訴外銀行に対し、速やかに連絡した上で支払うことを求めるとともに、返済のないときは訴外銀行において法的手段を取る旨の内容が記載されており、催告者及び債権者が原告である旨の記載はないことが認められる。

2  しかしながら、前記第二の一(請求原因)のとおり、訴外銀行は、原告の代理人として、被告会社との間で、平成二年四月二七日付契約書に基づき本件金銭消費貸借契約を締結するとともに、被告会社のために本件金銭消費貸借契約につき連帯保証したものであるところ、①本件催告書は右のような立場にあった訴外銀行が被告らに対して送付したものであり、②本件催告書表示の債務は、平成二年四月二七日付契約書に基づくものである旨明記されている上、③本件催告書には、別紙債務目録〈省略〉のとおり、訴外銀行が代位弁済したことに基づく求償権を被告会社に対して行使する旨の記載があり、同記載によって訴外銀行が連帯保証人であることを前提とした催告であるとの趣旨が十分に読み取れるし、他方、④被告会社が、訴外銀行から、右平成二年四月二七日付で、本件金銭消費貸借契約とは別個に金銭を借り受けていたとの事実は窺われない(弁論の全趣旨)。そして、被告会社は、訴外銀行に対し、本件催告の内容につき直ちに異議を述べるなどの対応を取っておらず(弁論の全趣旨)、その他、本件全証拠によるも、被告会社において、本件催告が本件金銭消費貸借以外の債務に関するものと誤認してもやむを得ないような事情があったとはいい難い。

3  以上の点に、甲一〇及び弁論の全趣旨を総合すれば、再抗弁1の事実を認めることができ、本件催告書は対象となる債務の表示が特定していないとの被告らの主張は採用し難い。

二  再抗弁3(一)の事実については、前記第二の一1及び2の各事実、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によって認定することができ、同認定に反する証拠はない。

三  再抗弁3(三)について

前記一の諸点、甲一〇及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、訴外銀行が原告のためにする意思で本件催告を行ったことを知り得たと認めることができる。

四  以上によれば、本件催告が原告にとって商行為に該当するか否か(再抗弁3(二))につき判断するまでもなく、被告ら主張の消滅時効は本件催告によって中断したものというべきである。

よって、原告の請求にはいずれも理由があるので、主文のとおり判決する。

(裁判官 青沼潔)

〈以下省略〉

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